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 表裏 3

* * *

「話があるのでしょう」
 茜は再び現れた凍馬に向けてそれだけを言うと、部屋を出て行こうとする。
「いいんですか。あなただって」
「いいのよ、あたしは」
 きれいに微笑んで、彼女は凍馬の横を通り抜けた。お互い謝る気はない。後から謝るのなら、最初から行動を起こさなければいい、凍馬はそう思っていた。それに加え、ここの状況は先ほどまでとは違うのだ。
 彼は部屋の奥のベッドに横たわる瞬を見た。後ろ手で扉を閉める。
「おはよう、瞬」
 呼びかけると、瞬はおもむろに声の主の方を見た。深緑の、力ない瞳が凍馬の神経に伸し掛かる。凍馬は瞬へと歩み寄ると椅子に腰かけた。
「彼らに大まかだけど、説明をしておいたよ」
 それまでと同じ微笑みで凍馬は瞬に話しかけるが、瞬はそれに全く反応しない。天井を見つめたまま、何も表情にはしない。
「お前のせいじゃない」
 その言葉に瞬の眉がぴくりと痙攣した。凍馬は続ける。
「全ての巡り合わせが悪かったんだ」
「相変わらずだな、凍馬」
 低い声で瞬がようやく口を開いた。
「何がだ」
「心にもない、きれいごとばかりを言う癖さ」
「お前も相変わらず、心に少ししかない悪態をつくだろう」
「俺のせいでしか、ありえない」
 言い切ってしまうと瞬は体を起こした。
 さすがの凍馬も腹が立って、おもむろに立ち上がると瞬の頬を思い切り殴りつけた。
「いい加減にしろ」
 行動とは裏腹に、静かな凍馬の口調。瞬は強く凍馬を睨み上げた。凍馬は矢のような瞬の視線を緩く受けとめ、再び腰を下ろす。
「何もかもを自分のせいにして逃げるのも、自分を粗末にするのも、もういい加減にやめろ。正直言ってお前のその行為は、お前を想う者に対する裏切りでしかない」
「何もかもわかったふうに言うな」
 瞬は凍馬から目を逸らし、硬い表情でシーツの波を凝視する。
「お前は昔からそうだ。いつも先回りをして俺のことをあやすように扱う」
「悔しいか」
 凍馬の問いに瞬は沈黙する。凍馬は軽く鼻で笑った。
「嬉しいくせに生意気言うなよ」
「黙れ」
「いいか、瞬。周りの人間はお前が想像する以上にお前のことを見ているさ。もう少し器用になれ。そして上手に希望を持て。自信を持て。お前はもう、何かに怯える必要なんてないんだ」
 彼の言葉に迷いはない。
 瞬は自分の感受性を最小限に抑えるため瞳を閉じた。
『何が大切かを、よく考えて』
 再び目を開けた時、そこから情熱は押し殺されていた。
「説明をしてもらおうか、凍馬。一体どういうことなのか」
 瞬にそう請われた凍馬は順を追って簡潔に、なぜ封印が解けたのか、そしてなぜ茜がここに居るのかなどを説明した。
「そうか、退位したのか」
 そのくらいのことは理論的に予想がついていたが、真実とは信じられず、瞬は自分が滑稽に感じられてきた。
 あの苦しみは、何だったんだ。
 なんのために、ここへ来たんだ。
 頭痛がする。瞬は急に何か探し始めた。
「あぁ、それから。当然紅くんも来ているよ」
「茜のことだ。ひとりで来るはずない。予想はついていた」
 いつもの癖で、瞬は作り物のような髪をかきあげる。
「煙草はあるか?」
「俺が持っているはずないだろ」
「そうだな」
 瞬は大人しく諦めた。
「怖いのか? 紅くんに会うのが」
「そういうわけじゃない。まぁでも、お互い様ということにしてほしいな」
「確かに、彼も戸惑っているようだけどね。まぁ、それはお前たちの問題だな」
「そういうことだ」
 ひどく痛む頭を軽く振りながら、瞬はベッドから出てそこに腰かけた。

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